動揺。

中途半端にひっかけたスニーカーは踝を踏み潰してしまっているし、紐が解けて何度か躓いた。体力にはそれなりに自信がある方だが、有り得ないスピードで心臓は早鐘して疲労感が凄まじい。町行く人が何度振り返ろうと、どれだけ肩がぶつかっても足を止めないのはあいつの異常な笑みから逃げたかったからだ。

理解が追付かない。何だって? 狂ったのか、俺だけがひとりで。

「……ッはぁ」

孤立しているのは危険な気がした。かと言って新羅の家は逆方向だ。自ら自宅の方に足を向けるなんて恐ろしくて首の無いセルティが喋りだすくらい選択肢としては有り得ないない。肺の痛みが尋常じゃなくてついに俺は動きを止めた。学生時代でもこんなに本気で走ったことはない。 あいつを追いかけていた時ですら。

「……」

そんな。常識が通用しない。臨也が普通なんだとしたら俺は一体……。
癖でポケットから煙草を出そうとするが、箱には既に数本しか残っていない。あれだけ摂取していたはずの酒も今は抜けているのだろうか。意識も理性もはっきりしている。覚束ない手でなんとか先端に火をつけて深く吸い込むが、上手に取り込めず、らしくもなく噎せこんだ。

「っけほ、は」

煙の所為で涙すら浮かんできた俺の脳裏には、知っていると思っていた臨也の表情が移り変わる。高校時代から、何よりも近しく、誰よりも深く接してきたと自負していたのに。知らないのだ。
あんな風に笑うんだって。俺はあいつの事をなにも知らなかった。


小銭しか持ち合わせていなかった為に、空いていたファストフードの店に転がり込む。とても速いという意味に違わず、頼んだシェイクは一分と経たず俺の手に収まり手近な席に腰を下ろす。何処か、なんだか見られているような気がして落ち着かない。実際は気のせいか、もしくはバーテン服を着ていなくても俺だとバレているのかどちらかだ。そうじゃなくては怖い。

「静雄か?」

監視されているんじゃないかと疑っているのに声をかけられては、握っていたシェイクを潰してしまうのも無理ない。言い訳を一瞬で考えながら振り返れば、高校時代の同級生のひとりが立っていた。

「……驚かせたか?」

見るからに申し訳なさそうに手を上げる門田に、何一つ質問に答えていない俺は我に返ってなんでもないとぎこちなく口元を釣り上げた。

「外から珍しくお前がひとりで居るのを見かけたからな。何かあったのか」

特別集団で行動する訳じゃない俺だが、仕事以外じゃひとりで外に出ない、という意味で珍しいのだろう。休みの日は大抵家でごろごろしていた。

「ちょっと、な」

個人的にはちょっとどころじゃないが突っ込んだ話をするのにも躊躇われる。余り良い雰囲気ではないのを悟った門田は一旦席を外し、程無くして珈琲を片手に隣の椅子へ座った。

「お前が悩んでるなんてよっぽどなんだな。顔見て何かあるのすぐ判ったぞ」

顔、顔。そんなに出ているのだろうか。シェイクが零れて濡れた手を、ナプキンで拭きながら正面のガラスに映った自分の表情を窺った。確かに余り顔色は良くない。

「仕事か?」
「いや……プライベートの方」

此処でやや躊躇う。素面ならなんでもないとだけ言って、他愛のない話に話題を振れたのかもしれないが、生憎まだ抜けきらない酒の所為でつい気持ちが揺らぐ。俺よりも臨也よりも、新羅よりも一般的な感覚を持っている門田なら正解を教えてくれるかもしれない。紙をゴミ箱に投げ捨て、門田が珈琲から口を離したのを見計らって口を開いた。

「あの……例え話なんだけどよ」
「なんだ?」

俺が自主的に話す気になったのが嬉しいのか、カップを置いて聞く体勢に変わる門田に面白い話じゃないからなとだけ前置いた。

「……あー、その前に、門田は彼女とか居るのか」
「は? 静雄の悩みってそっちの方向か?」
「とりあえず俺の質問にだけ答えてくれ」
「ああ、悪いな。まあ答えとしては、居ないな」

予想していた通りの回答だった。俺に比べて真っ当な職に就いている門田はいつも仕事か、あの変わった二人組と一緒……三人だったっけ? とりあえず何人かとつるんでいたから、彼女が居る風には見えなかった。聞き返されると面倒なので間髪入れずに聞き返す。

「で、あくまで例えだぞ。例えば……門田に彼女が居て、彼女が浮気したらどうする」
「また……色々際どいというか難しい質問だな。浮気されるっていうのは俺に嫌なところがあるとか、満足出来てないとか他に好きな奴が居るとか、まあそんな所だろ。だから直す努力をする……って格好つけたいが、正直その時になってみないと判らん」

参考にならなくてすまんと苦笑する門田だったが、感覚としては俺と似ていた。他に好きな奴が居るというより全人類を愛してるなんて豪語するあいつのことだから、俺の事も大した存在ではなかったんだ。

「じゃあ浮気を正当化されたら? 別に恋愛感情はないから良いだろって開き直られたら?」
「……大分変わった彼女と付き合ってんだなお前。てかそこまで言われたら俺なら自分から別れるかもな。他の男にも同じこと言ってそうじゃねえか」

他の奴にも、同じこと。他の女には俺という存在をなんと説明しているのだろうか。というより話題にすらならないだろうな、男だし。温まってきた指先を自覚して最後の一本を取り出す。今度はきちんと吸えたので、非喫煙者の門田に気を遣い逆方向に吐き出した。

「そうだよな……別れて正解だよな」
「ってことはお前、彼女居たんだな? こないだ臨也に会った時も聞いてなかったから」

ついひとりで考え事をしていたかのような錯覚に陥って漏らした独り言を拾われた。しかも極々自然に恋人の名前が飛び出して再び噎せてしまう。存外に大きな声だった所為で、夜でまばらとはいえ人の目が集まった。

「……別にあいつは関係ねえし。死ねば良いって思ってる」
「悪い悪い。相変わらずお前らは顔を合わせたら喧嘩しやがって。もっとブクロを大事にしろ」

珈琲を喉に通す様子から彼女が居ると勘違いされた事を悟ったが、撤回するのも面倒だ。どうせもう居ない。
最後の煙草は、名残惜しいがすぐに灰皿に押し付けた。臨也の言ったことが信じられなさすぎて、ショックを受ける事すらままならない。だけど、最後に俺を引き留めようとしたあいつの声を思い出したら、つきりと胸が痛む。恋愛ってなんなのか判らない。まともにそれと呼べそうなものを教えてくれたのが臨也なのだ。

「そういうのって、なんか……理解出来ねえっていうか。あんまりにも当たり前みたいに言うから、俺が変なのかと思った」
「浮気が云々って奴か? それは静雄の考えが正しいと思うぞ。浮気を許容出来る人間は少ない」

俺は浮気をゆるせる人間なのか? と聞かれたら、とりあえずNOと答える。誰しも生きていれば恋人以外の人間と深い付き合いになったり接することだってあるだろうが、はき違えたらいけない。一線というものは存在する。
あいつは挨拶と言っていたけど俺にとってキスは神聖なもので、軽々しく、愛も好意も抱いていない相手に出来るようなものじゃない。考え方が古いのか、可笑しいのか。俺はそんなに、器用な恋は出来ない。

「俺、今から露西亜寿司行くけどお前も来るか?」

携帯で時計を確認した門田は遅い晩飯なのだろう、外を見ているということはあのワゴン車で迎えに来るという事かもしれない。

「ん……いや、でも」
「偶には違う面子で行くのも楽しいぜ」
「じゃあ、……邪魔させて貰うかな」

ひょっとしたらまだ家に臨也が居るかもしれないと思うと、このまま門田と別れて帰路につくのは賢い選択じゃないように思える。手のべたつきが気になる俺はトイレで手を洗う旨を告げて先に歩かせた。その際に、そういえば財布を持ってきていなかった事を思い出して慌てて店の外に出るが、門田はもう合流していたらしく誰かと喋って、    え?

「あ、シズちゃん」

一瞬誰だか判らなかった。そこに居るのは前世からの約束だったと言わんばかりに、何の違和感もなく立っている。俺と臨也を引き合わせた事を普通の意味で申し訳なく思っている門田は頭を抱えた。

「おい頼むから喧嘩するなよ。静雄と飯食いに行くんだ」
「悪いけどそれはキャンセルで。ね、シズちゃん」

するりと門田の脇を擦り抜けて俺の方に軽快な足取りで近付いてきた。どうして此処に居る。思考が止まって動けないで居る俺を、門田は怒りに震えているのだと勘違いしていて特に止めようとはしなかった。

「探したよ。随分慌てて走り回ってたみたいだけど、どうかしたのかい?」

その気になれば俺が何処で何をしているか、24時間体制で判るのだろう。殴ったばかりの腕は異常を感じずひらひらと俺の前で振って見せた。

「っ……」

臨也の眼は、俺の奇天烈な行動を不審になんか思っていなかった。話の最中で急に飛び出して行った俺に、なんの疑問も持っていない色だ。さっき俺の家で話していた臨也は別人だったんじゃないかというくらい、可笑しい。こんな臨也は知らない。知らないものは、怖い。

「駄目だよ」

俺が逃げ出そうとしているのを敏感に察知したのか、走り出す前に腕を掴まれた。そのまま眼を細めて「捕まえたァ」とうっとりするように笑う。

「放せ、触るな!」

振りほどけないだなんて冗談だろ。どんなに引っ張っても、臨也の身体が傾くだけで指は喰い込んでるんじゃないかというくらいの強さだ。

「強情だなあ。なんなら、今この場でキスしてあげようか?」

びくりと、肩だけじゃなくて全身が震える。意識を臨也から周囲に向ければ、池袋だけあって相当数の人間がこちらを見ていた。殴り合うような雰囲気でもなく、ただ腕を掴まれている、それも臨也に。それだけで普段と違うことが手に取るように判るのか異様な空気に包まれていた。

「……ふざ……け……」
「じゃあ大人しくついてきなよ」

俺が痛みを感じるレベルまで握り込まれて、救いを求められるような状況じゃないのに、俯きながら助けてと心で願った。遠巻きに見ている門田に迷惑はかけられない。くそ、という悪態と舌打ちだけで後悔を吐き出した俺は、もう空になっていた煙草を思って眩暈がした。


タクシーに押し込まれて辿り着いたのは、池袋ではなく新宿で。逃がす気がないのだろう、車内でもずっと腕を掴まれたままだった。一度は振り払い、殴りかかった腕だった。

「此処で良いよ」

運転手に短く命令し、無理な体勢で引っ張られるお陰で肩が脱臼するかと思った。何故俺が何も言えないのか、そんなもの、俺が問いたい。エレベータの無情な到着音は耳慣れていて、一週間前を境に二度度来る気が無かったことを思い出して気分が沈む。ドアを開け、足早に廊下を渡って連れて行かれた先は何度も立ち入った事のある寝室だった。

「……!」

本能的に危険を察知して今更ながらに身体を引くが、腕の痛みが増すだけで効果は無い。
下品に足で扉を開けてベッドに突き飛ばされると、いよいよ怖くなってきた。所作はこんなに乱暴なのに、臨也は花が咲くような笑顔だからだ。

「怯えてるの? 初めての時みたいだね」

此処で、行われた行為で初めての事はひとつしか思い当たらず、血の気が引いた俺は覆い被さってきた男の腕から身を捩った。

「っめろ……!」
「はは、今更? 何時になく無口だけど大丈夫? 最近してなかったから怖くなったのかい?」
「ちがう、違う……違う、こんなこと、も、やめろよ……」

人工照明がなくたって、月明かりで逆光になるこのアングル。知ってる、慣れないこの体勢も緊迫感も。熱情が向けられていて、妬かれるそれをまだ。まだ嬉しいと感じてしまうなんて。
別れようと思ったのも、実際にそれを実行したのも、なぜ浮気したと問い詰めたのも、違うと知って喜んだのも、愛もセックスも俺だけのものじゃないと知った時の絶望も。全部、こいつが好きだったからだ。好きじゃなかったら、こうはならなかったのに。

「なんで? セックス好きでしょ、シズちゃんは」
「そういうんじゃねえ……! てめえとは別れたって言っただろ! 好きでもねえのに抱こうとするな」

臨也にとっては、友達間でスキンシップを取るのと変わらないのかもしれないけど、俺は、俺は違う。視線もぬくもりもふれあいだって俺だけのものであって欲しい。それが叶わないなら、可能な限りでそうして欲しい。
俺はそれを、特別だと思っているから。

「何言ってるの? シズちゃんは俺の恋人だよ? 嫌いなわけないだろ?」
「っじゃあ、もし俺が他の奴としてても、なんとも思わねえのかよ!」

他の奴を抱き締める。体温を分け合う。キスも、愛してるの言葉も惜しみなく注ぐ。お互いが唯一だ、絶対だと囁く。そう、臨也じゃない誰かと。温かくて幸せに満ちた暮らし。

ぞっとする想像だった。

「俺が仕事だからっつって、別になんとも思ってないからって言って、何処の誰かも判らねえ女と寝てても良いのか! キスとかそういうのも毎日やってて、それで一番はお前ですだなんて言って信じられるのか!」

少しでも臨也が考えて、自分の行いを悔いれば良い。申し訳ないと、本当にちょっとでも良いから思ってごめんと言ってくれれば、ゆるす事だって出来る。何を言っても言われてもこいつが好きなのは事実だから。

「……く」

なのに、

「く、く……あはははは!」

ほんの刹那の間だけ眼を丸くした臨也は、途轍もなく楽しいものにでも出会ったとでも言いたいように口元を抑えるが、それでも結局抑えられなかったのか、盛大に笑い声をあげた。人の上で腹を抱えて笑う姿は、滑稽なんかじゃなく、狂気以外のなにも感じなかった。

「……」
「ははは、はあ……はあ……あーもう、笑わせないでよシズちゃん」

絶句している俺を見下ろして臨也は益々笑みを濃くする。

「あのね、そんなの駄目だよ」

、これが臨也。圧倒されていた俺は、正常な思考がようやく追いついてきて顔を怒りで赤らめる。自分がするのは良いけど俺は駄目? それじゃあ、自分が悪い事をしていると、されたら嫌な事であると認識しているようなものじゃないか。こんな奴の為に俺は何をしているんだ。僅かにでも期待した俺が、ああ、くそ。やっぱり今この場で殺してやると腕を動かそうとするが、その前に臨也の右手が俺の首を絞めつけた。

「っぐ……!」
「駄目だよ、シズちゃん。そんなんじゃあ駄目だ」
「なに……が、……」
「自分で自分の首絞めちゃってるよ」

悪戯に力を強める細い手首を掴むが、ぐっと顔を近付けた臨也はたっぷりと甘さを乗せた微笑を湛える。こんな表情、人間が出来るのか。

「例えっていうのは具体性や現実味があって初めて相手にダメージが与えられるんだよ。判る?」
「は、あ……?」
「……シズちゃんには、出来ないだろ?」

ひそり。 重力に従って真下に落ちる臨也の前髪が俺の額を擽る。とても小さな声、抉るような低さで臨也はうたう、

「君には、そんなことは出来ない。俺以外の奴と寝る? キスをする? 愛してるって言う? 付け上がるのも大概にしろ」

囁くように。見開かれた俺の眼は、臨也の横顔に注がれた。

「出来ないよ、出来ない。それが仕事だろうが、親友に泣き付かれたからであろうが、君はそんなことするくらいなら自分が傷付くことを厭わない人間だ。そんな事して後ろめたさや罪悪感を感じないような奴じゃないだろう? だけど俺は出来るよ。だって本心では君にしか愛を囁きたくなんかないからだ。ねえ、シズちゃん。そんなクソガキみたいな理屈言うなんてらしくないよ。君は常に本能で生きるべきだ。……じゃあ、良いよ、今から女の子を呼んであげるから抱いてみなよ」

首に置かれた手が退き、実際に上半身を起こした臨也が携帯を開くのを、固まったまま俺は見ていた。身体が冷たい、凍ったように震えてる。臨也の指が番号を押して耳に押し当てる。何か言わないと、だけど唇は戦慄くだけで声が出ない。臨也はいとおしいものを見る眼で俺に笑いかけ、シィ、と口元に指を当てる。だめだ、だめだ、だめだ――。

「ああ、ごめんね夜遅くに。突然なんだけどさ」
「や、めてくれ」
「今大丈夫? 大事な用があるからすぐ俺の事務所に」
「っやめろ!」

衝動だった。臨也の手首を捻り上げ身体から遠ざける。携帯は握り潰して、発作でも起こしたように息が苦しい。
無理だ。そうだ、俺には無理だ。臨也以外と愛を育む行為が出来るほど俺は強い人間じゃない。でも臨也は違うのだ。そんなことに、心を痛めない。眼が、熱い。

「――ほォら」

ぼろぼろと涙が止まらない。通話を邪魔され、携帯を壊されたというのに臨也は全く怒っていない。ぜんぶわかってたよ、なんて言うように優しく、乱暴に俺を押し倒し唇が触れる距離でそう言った。

「出来ないだろ?」

口付けは、やさしくなんてなかった。
泣いている所為で呼吸がいつもより短い。悔しくて、錯乱して戸惑う俺は必死に応えながら、身体をまさぐる臨也の手に身を縮こまらせる。臨也には出来ても、俺には出来ない。これじゃあ、やっぱり俺の方が可笑しいのか。門田や世間の常識なんて通用しないのは、これは俺たちの問題だからとでも言うのか。

「臨也……」

だけどこれじゃ根本的にはなんの解決にもなっていないじゃないか。俺は臨也が仕事上だとしても他の奴を抱くことを我慢出来るか判らない。悔しい。くやしい……。以前は嬉しくなった臨也の肌の感触も、止まらない涙を溢れさせるだけだ。

「俺のこと……好き、か?」
「好きだよ」

本心からなんだろうが、即答過ぎて気持ち悪い。この“好き”も誰にでもあげるものなんだ。俺だけのものじゃないんだ。他の奴の手垢がついたものに、俺はなんでこんなに執着しなきゃいけないんだ。どうしてこんな男が好きなんだ、可笑しいだろ。

「愛してる」

涙で濡れた睫毛を瞬かせる。この時だけは臨也は俺のものだけど。愛してるの言葉は俺しか聞いていないけど。

「っ……俺は、……だい、きらい、だ……!」

背中に手を回して縋り付きながらの言葉は、意味はないかもしれない。証拠に臨也は微かに笑う気配を見せて、俺の服を器用に脱がせる。臨也に肌を晒すのは何日ぶりなのだろうとぼやけた視界を呪いながら鼻を啜った。
首筋に噛み付かれながら、確かに走る快楽に反応する身体を抑え付ける。ゆるやかに快楽を拾っていた性器が脈打っているのを自覚して死にたくなるが、首から脇腹まで丁寧に痕をつける臨也は前触れなく手で握った。

「っひ!」
「熱くなってる」
「言うな……言うなぁ……ぁ!」

首を振ってなんとかこの底が見えない暴力から逃げようとしても、久しぶりで余裕がないのか早々にベルトが外されて顔が赤くなった。下着の中に躊躇いなく手を突っ込んで上下に擦られ、腹筋と腕で持ち上げていた上半身の支えがひとつ無くなる。

「やあ、ああ、あ、んな、ぁ、強く、すんなあ……!」
「ん? シズちゃんも結構ヤバいんじゃない?」

せめてもの抵抗として震える膝を立てようとしても、身体を滑り込ませて妨げられる。臨也の指は、俺の好きなところしか弄らない。すぐに高められて今にも出そうだ。なんとか袖を掴んで制止をかけると臨也は急に手を止める。

「ぅ、あ……?」

射精まであと少しだったのに、だなんて。止めた癖にそう思った俺は恐る恐る顔を上げる。丁度舌なめずりした臨也の顔が見えて性的な動きに呼吸を忘れていたが、嫌味なくらい綺麗な声でイキたい? と首を傾げて見せた。

「っあ……」
「ねえ、どう?」
「…………き、た……」

羞恥でどうにかなってしまいそうだ。口に出した声はあまりに小さいので、なんとか首を縦に振る。しかし今度は臨也の身体が離れていき、名残惜しさに声が漏れ自分でも驚いた。

「あ……ち、ちが」
「イキたいんだろ?」

正直このままでは辛い。身体は火照ったままだし、半端な愛撫に身体は期待で震えている。だけどそれを臨也に懇願するのは、さっきの事があったばかりで言い出し難い。だが臨也の方は言葉での答えは求めていなかったのか、シャツを脱いで身体を後ろに投げ出す。開かれた足に意図が読めず戸惑いを顔に出した。

「イかしてあげたいけどさ。先にこっちやってよ」
「は……?」
「銜えてってこと。シズちゃんが生意気なこと言うから罰ゲームね」

なんのことだよ、という問いは呑み込んだ。あの例えのことは、覆されることはないと思っていた絶対の自信だった。臨也が改心してくれるんじゃないかという一縷の望みだった。心に深く突き刺さり、ごくりと唾を呑んだ。それを了承と受け取った臨也は自分じゃ何もする気がないのか催促することもしない。

「……っ、く、そ」

のそりと重い身体を引きずって、目いっぱい睨み付けてから臨也の下に跪く。自分のものとは違い、ベルトの音が耳障りで尻込みしてしまう。声すらかけず、真っ赤に光る視線だけを浴びせてくる臨也に意を決して、ぎゅっと眼を瞑り臨也の性器を銜えこんだ。

「ん……」

舌触りが独特なものは、既にとても硬くなっていてほんの少しだけ安堵する。欲求に従うのが男だといえどその気がなければ欲情などしないだろう。ぎこちなく舌先で舐め上げて、以前教えられた通りに口を窄めた。歯を当てないように、なんて。己自身も熱に浮かされている状態なのに上手く出来る確証なんてなく、気後れがそのまま愛撫に出てぬるい快楽しか臨也には与えられていないだろう。

「は、……んん……む」

臨也の手が俺の髪を撫でる。それに驚いたお陰で強く吸ってしまい、頭上から堪えられなかった声が聞こえた。多少なりとも気持ちが良いのだろうが、臨也を先に解放しないと俺の熱はこのままだろう。さっきよりも大きく口を開けて喉奥まで絡める。嫌悪感も気持ち悪さだってあるけど、舌の動きは段々大胆になってきた。

「……ぁっ……はあ……ん」

技巧がない俺の口淫ではどうしたって時間がかかる。しかも臨也をイかせられるくらいにとなると厳しい。ふと臨也が俺以外を平気で抱くのは、俺とするセックスが気持ち良くないからだろうかと頭によぎった。暗い、陰鬱な気持ち。きゅっと全体で締め付け、吸い上げると、臨也の方から頬を撫でられた。

「ん。シズちゃんもう良いよ」
「っ……ぁ、ん」

ずるりと唾液まみれのものが口から吐き出されたと思ったら、そのまま撫でられていた頬に熱い熱が押し付けられて固まる。青臭い匂いは、間違いなく今銜えていたそれで。

「あ、あ、や、やめ」
「シズちゃんの肌、きもちーね」

髪を掴んで無理矢理擦りつけられると、限界が近かったのかすぐに顔を上げさせられた。

「出すよ」
「え? ぁ、待っ……!」

こいつが待てと言って待つわけないのに、言わずにはいられなかった。顔にかかる飛沫は肌にどろりと纏わりつく。量の多いそれが髪の毛まで飛び、そのまま首を通って胸元まで落ちてきた。

「はは、可愛い」

ぴくぴくと震える俺の膝を強引に割開き、顔についた精液を掬い取ると前触れもなく後孔に指が突き立てられた。

「んあぁぁっ!」

前、前は。鎮まりかけていた高ぶりはまた反応を見せる。ずっとしていなかった所為でかたく閉ざされているそこを性急な手付きで暴かれていく。痛みの方が断然強く、悲鳴のような声を上げてシーツにしがみ付いた。

「や、やめいざ、いざやぁ」
「もうちょっと待って」
「っああ!」

指の数が増える。久々に臨也に触れられて、喜ぶ余裕もない。息が続かない、苦しい。申し訳程度に慣らされ、始まりと同じくらい唐突に引き抜かれた。引きつった太腿が頼りなく、シーツを掴んでいた腕を引っ張られて身体を起こされる。

「乗って」
「ぁ、……え……?」
「早く」

そんな、たったこれだけの愛撫で。言葉は荒いし行動が何処か性急だが、それが辛く痛いことだと知っている身体は中々動かない。

「要らないの?」
「……う」

不敵に笑う臨也は俺が首を横に触れないことも知っている。唇を噛みながら、横たわる臨也の上になんとか身体を移動させた。

「自分で入れれる?」
「む、むり」
「じゃあ手伝うから腰上げて」

快楽の蜜を覚え込まされている身体が言う事を聞かない。言葉通りに少し腰を持ち上げると、臀部を掴んだ臨也がぐっと下に押し込む。入り口に先端が触れたと思った瞬間には、もう入り込んでいて肢体が強張った。

「っい、ああ、あっ」
「力、抜いて……」
「でき、ない、出来ねえ……!」

やはりあれだけの適当な慣らし方ではスムーズには入らない。ぎちぎちと締め付けている自覚はあるが、そうでもしないと内側から裂かれそうな痛みに襲われる。この先は怖い、もうゆるしてくれと涙を流して臨也の腹の上に手を置いた。

「は……」

臨也がその手を取って身体を持ち上げる。そのまま空いた手で頭を引き寄せて唇を吸い合った。行為中にする臨也とのキスは、いつだって身体が溶けそうになる。零れそうになる唾液をなんとか喉を鳴らして嚥下すると、臨也の指先がつつ、と腰から臀部までを伝う。くすぐったさと快楽に力が抜けて、見逃さなかった臨也は乱暴ともいえる手付きで奥を穿った。

「っんんー!!」

体験したことのない痛みを逃がそうと臨也の身体に縋り付く。ひょっとしたら切れているかもしれないが、腹の中に感じる異物感がすべて挿入されたと教えてくれて必死に息を整える。

「いざや……いざやぁ……」
「ん、なに……?」
「っあ、あ、やだ、いたい……」
「怖がらないで、ゆっくり動いて」

そんなの無理だと泣きながら、臨也にしがみ付く腕はそのままにほんの少しだけ腰を揺らす。こんなことになる前は、臨也は長ったらしいくらいに丁寧にほぐして、俺が最小限の痛みしか感じないようにしてくれていたのに。俺とするのが気持ち良くないなら、なんで臨也は俺を抱くのだろう。こんな、手間をかけて男と繋がって。非生産的なこの行為の合間にそんなことを考えて、別の意味で嗚咽を漏らす。痛いなどと連呼したら気持ちが萎えるに決まってる。せめて、せめて今だけは俺を見てくれているなら、ずっとひとりじめしていたい。臨也に縋る腕をそっと離して自分の口に添えると、痛いのを我慢して無理矢理動いた。

「っひ、あ! う、ん、んんー……!」
「シズ、ちゃん」

予想以上に苦しい。やはり繋がった部分が切れているかもしれないと思うと、怖くて足が竦む。いっそ浮気しているだなんて気付かなければ良かった。そうすれば臨也と会えないのも単に仕事が忙しいのだろうと信じることが出来て、偶に行われる性交渉も愛を感じる行為として受け入れられて、幸せすら感じただろうに。
今、身体を重ねたって、心は空っぽのまま。

「ぁ、ん! んっ……ん、ぐ」

塞ぐだけじゃ抑えられなくなり、思い切り親指の付け根に噛み付いた。人間の外側の身体では最も硬い歯。しかも俺のものだとなると下手な刃物よりも鋭利。ぶちぶちと嫌な音がするが、構わず噛み締め続けた。こちらに痛みが分散されれば、少しは臨也と繋がれる快楽を得られると思ったからだ。

「はあ、っく、ぁっ……!」
「シズちゃん」

少しずつ知られた身体が暴かれる。時折隙を見て突き上げてくる感覚に背筋が震えるが、俺の口からはくぐもった呻き声しか漏らさない。右手が血塗れで、線を作った血がぽたりと臨也の腹に落ち、眉を顰めた臨也が腕を掴んで律動を止めた。

「っ、? なに……」

ほろりと落ちた問いに答える事はなく、赤く染まった俺の唇をひと舐めする。揺らぐ瞳を覗き込んで笑うと、肩を押されて背中がベッドに沈んだ。急に変わる角度が良い所を掠めて「ぁん!」と甲高く啼いてしまう。

「んで、ま、や、やぁああ!」
「気持ち良いでしょ?」

俺を抑え付け、好き勝手に腰をぶつけてきて眩暈がする。上からのしかかられて、その重みすら俺には愛しい。膝裏に手を入れて自分で支えろと目線で訴えられ、その通りに腕を伸ばす。両腕が空いた臨也は爪が喰い込むくらいに腰を掴んで思うままに揺さぶった。

「いざ、んんっぁ、は、……だめ、だ、ぁあ!」
「どうして? こんなに締め付けてきて気持ち良くないの? じゃあ抜こうか?」

そう言いながら、俺を犯す腰の動きは止める素振りすら見せない。確かな快楽を感じている俺は抜けていく感覚すら全身が震えるが、この時間を終わらせたくなくて膝を抱えていた手を臨也に伸ばした。

「っや、やだ、ん、まだぁ」

俺はまだ一度も達していない。この長い激流は拷問みたいだ。どうにかして息を繋げようとしても、嗚咽と喘ぎ声の所為で肺には満足に取り込めない。

「じゃあイイ? 俺とするの好き?」

なんだよそんなこと聞いてきて。お前にとっては、こんなの特別な意味なんて持ちはしないのに。そこに恋人としての意義を見出しているのは俺だけなのに。苦しい、狂おしい。もう壊れてしまいたい。
取られた手の甲に恭しく口付けなんて落とすから、ぞくりと胸が跳ねて身体の動きが一瞬だけ完全に止まる。嘘だらけの男なのに、表情や仕草から感情を窺い知れない。

「シズちゃーん」
「あっん!」
「気持ち良い? 何処が良い? 好きなところ教えてよ」

さっきまでの乱暴な揺さぶり方から一転して、じわじわと馴染むように動かされる。広げられたそこはもう痛みを感じず、強い異物感と圧迫感以外にはもう考えられなくなるくらいの悦楽しか待っていない。は、は、と犬みたいに短い呼吸しか行えず、力なく小刻みに震えている自分の足を見て情けなく顔を逸らした。

「こっち見てよ」

ずんと重く一度だけ突かれて甲高く上がった悲鳴を無視して、それはこちらの台詞だと止まらない涙越しに臨也を見つめた。
お前こそ。
俺を、見ろよ。

他の誰でもなく、俺を。俺だけの特別なものを。でないと俺は、誰と恋愛をしているのか判らない。

「ふ、……あ、お、く……おくっ……」
「掴まって」

両腕を臨也に首に絡めると同時に膝を持ち突き上げられた。この快楽は、気持ち良すぎて怖いのだ。

「やあぁ、あ! んぁ、や、も、ゆっくり……っく、り、あぁ……!」
「すご、熱い……何処までが俺の身体なのか判らないよ」

声も顔も近くて、なんとかして首筋に頭を埋めることで気持ちの昂ぶりを抑えた。ああ、臨也も気持ち良いんだな、って思った途端にきゅうと中が狭まってしまい、臨也が息を詰めるのが判る。奥と言ったら奥だけを執拗に攻め立ててくる。限界を訴えたくて背中に爪を立てて涙を零した。

「も、も、臨也ぁ」
「っん」

ぱさりと汗ばんだ黒髪を臨也は乱暴にかき上げる。露出した耳や額、普段では見られない獣のような表情がどうしようもなく色っぽく、熱い吐息を吐き出しながら凶悪な微笑にぐっと中のものが大きくなった。

「イこうか」
「は、ああっ……ん、ん、ざ、……いざや、いざや」

――臨也が齎す快楽は、俺の大嫌いな暴力に似ている。

「ああああぁあ」
「……っ」

爆ぜたのがどちらが先か、判断がつかない。腹に生暖かい液体が飛び散るのと体内に粘ついたものが注がれるのと、気付いたのはほぼ同時だ。逃がさないとばかりにきつく腰を抑え付けられて、孕めない平らな腹がふつふつと満たされていく。太腿の痙攣が止まらず、腕を留めておく余力すら失った俺はベッドに背中から落ちる。涙と唾液に汚れた顔はひどく醜いだろうに、出し終えて満足した風な臨也は繋がったまま身体を倒して俺に口付けた。

「ん、む……」

頭も視界もぼんやりしている。これで、これが現実なら。このままずっと居たいのに。夜が明けたら、こいつは俺のものじゃなくなる。むしろ、今でさえ違うのかもしれない。レンタルで交換し合う恋人遊びに、じわりと真っ赤に腫れた眼から新たな滴が伝う。臨也は平気な顔で、明日は違う誰かを抱くのだろう。

「……い……や、だ……」

その相手とは、本当に恋愛感情がひと欠片もないのだろうか? 仕事でもなんでも、自分の好みと違うのと付き合うのは辛いだろう。例えばちょっとの優しさとか、顔の形とか、少しでも気に入って好きだと思える所がある奴とそういった営みを結んでいるのではないのだろうか。
だったら、俺は、俺は。

「っなんなんだよ……俺は……俺はなんだ……」

臨也にとっての俺は、数居るセフレのひとりに過ぎないんじゃないだろうか。
恋をしていると思っていたのは、俺だけなんだろうか。

「なんで泣いてるの……?」
「判らねえのかよ……」

知らないなら良い。気付けないなら無理強いしない。だから別れると言ったし、実行もした。なのに現実は眼の前に恋人の存在を映し出して苛むのだ。本当なら別れたくなんかないが、傷付いた心はこのままじゃ癒えてくれない。一緒に居れば居るだけ深く刻まれていく。まだ、引き返せるんじゃないか。臨也と違う道を選べば、救われるのではないか。今は無理でも、時間さえ経てば。

「臨也……」

しっとりと濡れた髪に指を絡めて滑らかな頬の感触を確かめた。出来ることなら、俺はまだ臨也と歩みたかったのに。

「頼む……」

口を突いて出たのは、最後の悪足掻きに等しかった。

「頼むから……俺以外の奴と寝るのはやめてくれ」

枯れ果てるくらいに泣きじゃくったから、眼は痛いしとても眠たい。もう、無条件に恋に酔える心は置き去りにしてしまった。俺の手を上から覆い、動いた口元が「シズちゃん」と囁いた。

「愛してる。君だけを愛してるよ」

    あぁ         答えは、ノー。

「……死ね」
「シズちゃんは愛されてるんだよ。誤解しないで」
「死ね、死ね」
「愛してるんだよ……君が一番なんだ」

(              )
何度も呪いを吐きながら喰い合うように唇を奪った。耳を塞ぎたくなるような音を立て、何度も角度を変えて殺すように。

「死ね……死ねよ、っん、……死、ね、……死ねえ……死ね……!」
「は、……それでシズちゃんが喜ぶなら死んであげるんだけどね」

気が遠くなる。肌にはあんなに刺さらなかったナイフが、脆くなった心に差し込まれるように痛みを連れてきた。塞がった傷口は歯の形をしていて乾き切って黒くなった血液に頭痛を覚えながら、ゆっくりと頬から手を外し肩に置いた。 縋るように。拒絶するように。死ね、じゃない。   。

「……なら」

此処から始めるなんて遅すぎた。すべて、なかったことにしてしまえばいい。

「やり直そう」

夜の光の中で、臨也が甘く笑うのが見えて、俺も随分と久しぶりに笑いかけた。
そっと埋め込まれていた性器を引き抜いて、残滓と寒気に歯を食い縛りながら息を整える。不思議そうな色を浮かべる臨也を見て、どさりと身体が倒れる。今度は、俺が臨也の上に乗って。

「ぜんぶ」

青白く光る細い首に手をかける。笑いながら涙を流す。流れた滴は臨也の頬に落ちて、まるで折原臨也が泣いているようだった。

「シ、」
「一から」

ぎりぎりと力を込めて、臨也の口元から唾液が零れるのをただじっと見つめた。
俺も愛してた。愛してる。一番に。お前とは違って、それは唯一だ。

「っズ、は、ぐ」

見開かれた臨也の眼が、酸素を訴える涙腺の働きで潤んでくる。自分の首を締める俺の腕に爪を立てて何度も引っ掻くが、俺は傷付けないようにと微動だにさせない。臨也が細足をばたつかせたって、力関係で言えば本来から俺の方が上だ。抵抗も意味なく、俺が退くどころか動くこともない。

嬉しくもない。幸せなんて感じない。こんなことなんてしたくない。俺を選ばず、かといって手放さず、この呪縛が解かれる奇跡はもう起こりはしない。

大好きなんだ。
だから、次はもっと愛されるように努力するし、性格だって少しくらいは素直になれるように頑張る。臨也の好みど真ん中を目指して笑えるようにするから。そんなくるしそうなかお、するなよ。


まるで見送るように遠い笑顔を作って、眼を閉じる。

「また会おうな」

 まってるぜ。




――迎えに来た音は、天使の歌声なんかじゃなく。
耳に久しい池袋の喧騒に響き渡る、そう、まるで赤いサイレンを鳴らす、あの白い車みたいだった。


健気に生きた結果。助けてください、殺されま