冷房がしっかりと行き届いた部屋の中は、風呂上りの身体に鞭を打つので寒気を覚える。しかし全身を包む火照りを鎮めたいと思うのでいそいそと冷蔵庫まで向かって贅沢に涼むのだ。
「大分プリンになってきたねえ」
丁度おやつにしようと手を伸ばしていたそれの名前が出て思わず腕を引っ込めるが、給湯室を覗きにきた臨也の視線は俺に向いていて一瞬理解が遅れる。
「……、あ、ああ、頭?」
「そうそう。前回染めたのいつだっけ?」
臨也に拾われてから大分早い内に今の色になった訳だが、痛んでごわついた金髪を臨也は気に入っているらしい。俺自身は特に感慨もなく、ただ地毛の自分を思い出せないくらいにはこの色が日常化してきている。
「ブリーチしてあげるよ。おいで」
「でも」
帰ってきた時間が時間で午後4時過ぎだ。この時間帯は学生のファンがよく来る。当然臨也の。学校を使って情報を集めたり、逆に噂を流したりするのは臨也が学生だった頃から使っていた手らしく貴重な情報源らしい。
事務所止まりでも臨也が他の奴に時間を拘束されるのはいたく気に入らないが、これは臨也の趣味だからどうしようもない。二階の本棚からいつも見てるけど。
「なんだかシズちゃんに構ってたい気分なんだ」
「……常に構え」
やだなあ構ってるじゃない、とわざとらしく肩を竦める臨也の前で牛乳をコップに注ぐ。風呂上りだし丁度良いかもな、なんて特有の気怠さを感じながら未だ入り口で待つ臨也にコップを戻すと手を取った。
「あったかいね」
「冷房つけてる癖に。寒いなら、」
「擬似的に寒い空間を作ってシズちゃんであったまる。うん、理想的」
まだ初夏だというのに蒸し暑ささえ感じる学校は苦痛過ぎる。抱き締められて体温を感じながら、確かに良いかもと口では言わず腕を回す態度で示した。
「んー……」
「根本黒くなっちゃってるなあ。最近さぼってた」
乾ききっていない降りた髪をじっと見つめられるむず痒さを我慢して、臨也の体温ほど心地良いものはないのできゅうとすり寄るように身体を寄せた。
「シズちゃんは甘えたい気分なのかな?」
「利害が一致するな……」
「ふふ、そうだね」
臨也は俺に構いたい。俺は臨也に甘えたい。俺は若干ねむたいので瞼が重い。
「ソファか、ベッド。どっちが良い?」
前者なら臨也の希望通り俺の髪色が直るのだろうが、後者なら昼寝に付き合ってくれると言うことだろう。顔を上げて暫し迷ったが、欲張りな俺は頬に唇を寄せて、きめ細かな肌の感触を楽しみながら髪に鼻を押し付ける。同じシャンプーを使ってるはずなのに、毛先から香る匂いは俺のものとは全然違う。
「くすぐったいよ」
髪の毛を食むように軽く唇に挟んでいたが、臨也に違う感想を抱かせたくてそのまま耳たぶに舌をつけた。
「もうちょいこのまま……」
「生殺しなんて生意気なことを覚えたねえ」
耳元で囁かれたからか、僅かに臨也の瞳が潤む。涙ではなく、欲の期待からだ。染色の後か、前かは判らないが風呂に入り直すことになりそうだ。
「じゃあ、ソファ」
「つまり全部ってこと?」
構え、染めろ、シたい、寝たい。
「やってくれンだろ? んっ、臨也ぁ」
「その自信は何処で身に着けてきたんだろうね? 不安だなあ、不安だからシズちゃんの行動理由を6文字で教えてよ」
「臨也が好き」
「愛してるよ」
ぜんぶよこせ。
キスがしたい。抱き締めたい。傍に居たい。お前にだけ、いだくものだ