「週末、予定空いてるよね」
問いかけではなく確認で、神経を張っていた俺は大袈裟なくらいに肩を震わせる。そうだけど、なんて言える雰囲気ではなく、かと言って黙っているような話題ではない。一瞬の間を開けて「なんで知ってんだよ」とぼそぼそ呟くと、実に爽やかな顔で俺に笑った。
「シズちゃんのことなら」
なんでも知ってるだなんて、そんな台詞は純愛小説の中だけで言ってほしい。初めて喧嘩以外で招かれた臨也の家で、出されたお茶を飲み干しているのにコップを置かず落ち着かないというのに。
「迷子みたいな顔してるね」
もうすぐでキリがつくからお茶でも飲んでてよ、なんて軽いノリで待たされていたが、その臨也が仕事やらを片付けて、いざこちらに向かってくる。心臓が跳ね上がって顔なんてろくに見れない。やっぱり帰るべきだったと、焼けるように熱い顔を自覚しつつももう戻れない。当たり前のように俺のすぐ隣に腰を下ろした臨也と肩が触れ合って、さっき震わせたばかりなのに今度は跳ねさせてしまった。
「何処かデートに行こうよ」
「で、……で、と、とか、お前」
「なんでそんなに動揺するの? デートもちゃんと発音出来ないくらい嫌だ?」
「そういう訳じゃ……」
正式に付き合うことにしてまだ日が浅いのに。週末を一緒に過ごすなんて初めての試みで俺は今インフルエンザみたいに40度の熱があるかもしれない。
「じゃあドライブにでも行こうか。俺、免許持ってるんだよ」
「……運転してる所なんて見たことねえぞ」
「俺は足で人間観察したいからねえ。それに免許証っていろんな所で身分証明に役立つんだよ」
こいつの事だから嫌味な外車でも持っているのかもしれないが、運転する臨也なんて想像がつかなくて思わずそちらに思考が傾く。
「……決まりだね」
俺が黙った事が決定打になったのか満足そうに臨也は笑ってみせる。顔をそらしている所為で、それが見れないのがとても残念だけど。そんなことを思いながら温かくなっているコップを置こうと身を乗り出した時に、臨也の顔が迫ってきて、あ、と口を開けた瞬間にはもうキスされていた。見れなかった顔が、こんな近くで。
「っ――!」
「愛してるよ」
人の体温って50度くらいまで上がるんだっけか。
実際にはそんなことはないけど、それぐらい熱くなった気がして俺は臨也の顔を見ない為に、俺の顔を見られない為に臨也の首元に顔を寄せた。
「今週末が楽しみだ、シズちゃん」
「……おう」
背中に回ってきた手がひんやりとしてて気持ちよかった。
まだふたりだった。幸せだった。