震える声でSOSを貰ってから30分と経たず発信者の元へ走った。嫌な夢を見たら俺に言う事。俺を確かめる事。無理矢理交わした約束だったお陰で静雄は遠慮して池袋に居る間は何も言ってくれない。良くてメールで事後報告だ。そんな彼が初めて電話してきた。
嗚咽を零しながら、臨也、臨也、とだけ。何事かと聞き返しても気が動転しているらしく、「俺」「臨也」「夢」の単語しか意味を持つ言葉を喋ってくれない。タクシーを急かして静雄のアパートに向かう。明日は仕事が休みだから俺の家に連れ込もうとしていた矢先だ、慎重に慎重に。身体は言う事を聞かず随分と乱暴な音を立て、インターホンも押さずに飛び込む。
「シズちゃん!」
ひょっとしたら俺に怯えるかもしれないと今更ながら思いついて声のボリュームを抑えたかったがセーブは効かず、早朝だというのに大声で叫んだ。布団にくるまっている彼は俺に気付いて驚いた顔をした。思ったほど泣いてはおらず、泣き止んだあと今までぼんやりしていたらしい。
「大丈夫? 何かあった?」
「……あった」
ぽつりとした呟きも掠れてはいたが取り乱してはいない。安堵すると共に、不思議な雰囲気を纏っている静雄に首を傾げた。
「何があったの?」
「ん……というか、なかった、って言うのかもな」
「は?」
どういう事かと訊ねる意味で見つめると、少しだけ歪んでいた泣き顔を綻ばせる。
「夢を」
「……?」
「見なかった」
「……」
それは、それは、俺を好きでいる間の代償として見ていた、例の?
何処か照れ臭そうに口元を抑えて笑う静雄を眼にして逆に俺は現実味を感じない。顔に、徐々に熱が集まった。
「昨日夜に、メール見てて」
電池が減った待ち受け画面を見せてきて、フォルダいっぱいに入っているメールを読み返していた旨を伝えてくれる。大事にしてくれているのか、遠目で見ても全部に鍵の画像がついている。
「幸せだなあって思ったんだけど、同時にまた、見るんだろうなって思いながら寝て……で、さっき、起きた」
「起きて暫く経ってからやっと気付いた。臨也の事考えてたのに、あの光景を見なかった。全然覚えが無え」
それが嬉しくて、嬉しくて、感動して、驚いて、戸惑って、涙が込み上げて来て、俺に電話しちゃうくらいに、幸せだったと。興奮して上手く喋る事すら出来なかったって。
夢見た時はメールさえ厭う君が、喜びを俺に教えてくれたんだ。つくづく俺をかき乱してくれるね。
「じゃあ、シズちゃん」
「ん?」
だから、次は俺が振り回したって構わないだろう?
「今日、俺の家に来て」
ちゃんと歯ブラシと着替えも持ってね。
君を抱き殺して、温かな肢体に「オハヨウ」だ